LOGINまあ……気に入られたのかな? 皇帝の事は良く知らないけど、思ったよりミリアにベッタリじゃなくて意外だったな。でも、ミリアが「黙っていて」と言うと……知ってはいたけど、本当に皇帝が素直に従っていたのには驚いたな。あの絶対的な支配者を言葉一つで御せるのは、世界広しといえど彼女くらいのものだろう。
「そうですよ。他の偉い人が刑を言い渡しても、自分が思った刑を覆すことはありませんし……。家族同様だと、皆の前でお認めになられ、お父様の口で”次期皇帝”と、おっしゃいまし……。”皇子”とも、お呼びになられましたよっ♪ しかも嬉しそうでしたわ」
ミリアは、弾むような声で、愛おしそうに語ってくれた。その瞳はキラキラとした歓喜に満ちていて、ユウヤへの深い愛が溢れ出しているようだった。
次期皇帝、それに皇子……。ユウヤは、その言葉の重みを改めて噛み締め、目眩がするような感覚に陥った。のんびり暮らしたいという望みからは、どうやら音を立てて遠ざかっているらしい。
そうか……全員斬首と言っていた刑を、当主と妻を残してと、俺の一言で刑の内容を変えちゃったんだよな。
ユウヤは、先ほどまでの皇帝の峻烈な決断を思い返し、事の重大さに改めて身震いした。自分の何気ない意見が、多くの人間の生き死にを左右してしまった事実に、胃の辺りが重くなるような感覚を覚えた。
って……次期皇帝って言われちゃったんだけど……皇帝もその気に? 皇子って……普通は血の繋がりのある実の子供の事を言うんじゃないの? 異世界だし知らないけど……。
「皇子って呼ばれたんだけど……良いのかな? 俺は皇帝と血が繋がって無いけど?」
ユウヤは、困惑を隠しきれない表情で、近くに居た国王に聞いてみた。答えを求めるように覗き込んだが、国王は恐縮した様子で深く頭を下げた。
「ユウヤ皇子……あまり、しっくりこないですね」
ユウヤは、額に浮かんだ冷や汗を拭いもせず、力なく呟いた。
国王の態度は、もはや「敬意」を通り越して「畏怖」に近い。先ほどまで不敬な口を叩いていた元貴族たちに至っては、顔面を蒼白に染め、小刻みに震えながら石畳に額を擦りつけている。彼らにとって、ユウヤはもはや「目障りな冒険者」ではなく、自分たちの生殺与奪を握る帝国の象徴へと変貌したのだ。
「そんなことはありませんわ。とっても素敵です、ユウヤ様。ふふっ、お父様も粋なことをしてくださいますわね」
ミリアは、ユウヤの腕をぎゅっと抱きしめ、幸福感に浸るように目を細めた。彼女から漂う甘い花の香りと温もりが、混乱するユウヤの心を辛うじて繋ぎ止めている。
だが、事態は止まらない。
「皇子、早速ではございますが、宿舎の準備を改めさせます。これまでの部屋では到底、お体に障ります。城で最も格式高い離宮を……」
国王が揉み手をするような勢いで進言してくる。ユウヤは、押し寄せる権力の奔流に眩暈を感じ、助けを求めるように天井を見上げた。
あの温泉のおっちゃん……。気前がいいとは思っていたが、まさか「国」を丸ごと押し付けてくるなんて。
ユウヤは、重厚な装飾が施された短剣の感触を腰に感じながら、平穏な隠居生活がガラガラと音を立てて崩れ去るのを、ただ呆然と見守るしかなかった。
「こういうことは、普通は無いよね?」
ユウヤは、自身の常識と現実とのギャップに耐えかね、縋るような思いで国王に確認した。
「はい……寡聞にして、聞いたことはございませんね」
国王は、冷や汗を拭いながら、慎重に言葉を選んで答えた。その正直すぎる反応に、ユウヤが「やっぱりそうだよね」と少しだけ安堵しかけたその時だった。
「聞いたことが無いから何なのです? 現皇帝が認めたのですよ。何の問題があるのです? それに皇帝継承権一位の、わたくしも認めているのですよ。血が繋がって無くても、わたくしの旦那様ですわ。それに……子供が出来れば次期皇帝ですわ。何の問題もありませんっ!」
ミリアが、愛する者を否定されたと感じたのか、美しい眉を吊り上げ、不機嫌そうに国王を睨みつけた。彼女から放たれる高貴な威圧感に、国王は蛇に睨まれた蛙のように硬直する。
「いえ……聞いたことが無いとお答えをしただけですので、深い意味はございません」
国王は、震える声で必死に弁明した。
「俺が国王に『普通は無いよね』って聞いただけだし。ミリアが不快そうにする事じゃないって」
ユウヤは、なだめるようにミリアの肩に手を置いた。しかし、彼女の昂った感情は、すぐには収まりそうになかった。
「むぅ……前例が無いとか、聞いたことが無いとか不愉快ですわっ。お父様が良いと言えば良いのですっ! ふんっ!」
ミリアは、頬を膨らませてそっぽを向いた。その姿は、帝国の皇女としての威厳と、恋人を想う少女としての純粋さが混ざり合った、愛らしくも恐ろしいものだった。
「ミリアさん? 怒りすぎ~」
ユウヤは、苦笑いを浮かべながら、彼女の激しすぎる愛情を一身に受け止めた。これからの苦労が容易に想像でき、彼は遠くの景色を眺めるように目を細めた。
だが、腰に下げた紋入りの剣の感触が、少しだけ心を軽くした。この王国で冒険者としての証明を得て、国を救った功績も認められている。これまでの信頼があるのだから、理不尽なことにはならないはずだ。「……今は、考えないでおこう」 ユウヤは思考を切り替え、逸る気持ちを足に乗せて家へと急いだ。ギルドでの騒動と山での激闘を終え、全身にずっしりとした疲労感が染み渡っている。何よりも今は、あの温かい場所へ帰りたかった。 玄関の扉を開け、リビングへと足を踏み入れる。 パチパチと暖炉が爆ぜる音と共に、スパイスの効いた食欲をそそる夕食の匂いが鼻腔をくすぐった。視線を上げると、そこには今か今かと待ち構えていたミリアの姿があった。「ユウヤ様……!」 目が合った瞬間、ミリアは弾かれたように椅子から立ち上がり、駆け寄ってきた。彼女はそのままの勢いでユウヤの胸に飛び込み、折れそうなほど強く抱きしめる。「もぉっ! 心配しました……酷いですっ! ギルドに行かれるとしか聞いていませんでしたよっ! しかも……伝言を、隠れて尾行をしていた隠密の方に頼むなんて……」 ミリアはユウヤの胸に顔を埋めたまま、ぎゅっとその衣類を掴んで抗議の声を上げた。 主人が急にいなくなったと思えば、姿の見えない護衛の隠密が困惑した様子で現れ、「ユウヤ様から伝言です」と告げられたのだ。その状況を思い返したのか、ミリアの肩が微かに震え始める。 彼女は顔を上げると、潤んだ瞳でユウヤを睨みつけたが、その口元は既に緩んでいた。「……ふふっ。あの方たち、気配を消して守るのが仕事なのに、あっさりと見つけられて、あろうことかお使いまで頼まれるなんて……。戻ってきたとき、すごく複雑な顔をしていましたよ?」 心配でたまらなかったはずなのに、ユウヤのあまりに規格外でマイペースな行動が、彼女の不安をおかしな笑いへと変えてしまったようだ。「…&hellip
「分かった。みんなには内緒ね!」 ユウヤが爽やかな笑顔で約束すると、ニーナは安堵したように、けれど大切そうにネックレスを胸に抱きしめた。窓から差し込む陽光が、彼女の金髪と青い魔石を宝石のようにキラキラと輝かせていた。「魔石の買い取りは、どういたしますか?」 ニーナが名残惜しそうにネックレスを指先でなぞりながら、職業的な顔に戻って尋ねた。「ん~今回は、止めておこうかな」 これだけの数の魔石を一気に市場へ流せば、価格の暴落を招くかもしれない。ユウヤはそう判断して首を振った。「そうですか……分かりました。それでは、こちらが今回の報酬の金貨五枚です。それと……ちゅ♡」 金貨を手渡すためにユウヤが手を伸ばした、その一瞬。ニーナが不意に身を乗り出し、至近距離まで顔を近づけた。頬に、柔らかく温かな感触が触れる。 え? えっと……。 ユウヤは雷に打たれたように硬直した。嬉しいけれど、ここがギルドの応接室であることを考えると、あまりにも刺激が強すぎる。「ご迷惑かもしれませんが……私に出来る、精一杯のネックレスのお礼です……」 ニーナはいたずらっぽく、それでいて潤んだ瞳でユウヤを見つめた。その表情には、受付嬢としての仮面など微塵も残っていない。「心配してくれたお礼だったのに……またお礼をされちゃったよ」「はい。本当に嬉しかったのです。あんなに素敵な、初めてのプレゼントを頂いちゃいましたから……」「え~ひどっ。あの時に、あげたリボンもプレゼントだったのに……」 ユウヤがわざとらしく、少し拗ねたような声を出す。「あ……そういう事では……すみません……ううぅ……」 『ニーナは失敗した!』と
「はい。王国の大規模な依頼で、三十人規模のパーティを組んで複数のパーティで大規模討伐を行っても、このような数字にはなりません。頑張っている冒険者パーティでも、毎日休まずに討伐を行って一年間で、二千体いかないくらいですよ。三万三千体って、いったい何をされたんですか……」 ニーナは縋るような、それでいてどこか遠いものを見るような瞳でユウヤを見つめた。彼女の持つ冒険者の常識が、音を立てて崩れ去っているのがわかる。 そう言われても……討伐をしちゃった物は仕方ないじゃん。一応……誤魔化してみるか。「えっと……じゃあ……依頼書が、おかしくなっちゃったんじゃない?」 ユウヤは頬を掻きながら、精一杯のとぼけた顔を作ってみせた。「ううぅ……そんな訳が無いじゃないですか……。そのような報告は、今までに一度もありませんよ」 ニーナは力なく肩を落とし、困ったように眉を下げた。だが、すぐにその表情を引き締め、ユウヤの無傷な姿を改めて確認するように見つめる。「問題はありませんので大丈夫です……。ただ、わたくしが心配をしてしまっただけですので。今後は、こんな無茶で危険な討伐はしないでくださいね……?」 彼女は母親が子供を諭すような、優しくも切実な響きでそう告げた。その瞳の奥には、ユウヤを誇りに思う気持ちと、二度とあのような無茶をしてほしくないという、心からの慈しみが満ちていた。「わかった、気をつけるよ」 ユウヤは苦笑いしながらも、彼女の温かな気遣いに素直に頷いた。「はーい。そんなに心配をしてもらえて嬉しかったから……ちょっと待ってて」「え? あ……はい」 立ち上がろうとしていたニーナは、言われるがままに座り直した。俺の顔をじっと見つめる彼女の瞳は、期待と不思議さが入り混じったように「
急いで帰路につくと、レベルアップによる恩恵は凄まじかった。脚力のみならず、心肺機能や動体視力までもが強化されており、飛ぶような速さで険しい山道を駆け抜ける。結局、馬車で数日かかるはずの道のりを、わずか半日で踏破して街へと戻ってこれた。 そのままギルドへ直行し、報告のために受付の列に並ぶ。すると、カウンターの奥で忙しなく動いていたニーナが、列の中にいるユウヤの姿をいち早く見つけ出した。 彼女はぱっと顔を輝かせ、丁寧にお辞儀をすると、弾むような足取りで駆け寄ってきた。「ユウヤ様、なにか問題でしょうか? 途中で引き返してこられたのですか?」 ニーナは眉をひそめ、縋るような眼差しで問いかけてきた。よほど重大なトラブルがあったのだと思い込んだのか、返事を聞く間もなくユウヤの手を引き、足早に応接室へと連れ込んだ。 重厚な扉が閉まり、二人きりになると、彼女は身を乗り出すようにしてユウヤを見つめた。「どのような問題でしょう? わたくしにできることがあれば、何でもご協力いたしますよ」 必死に力になろうとしてくれる彼女のひたむきな姿勢に、ユウヤは苦笑いを浮かべた。「ん? 問題はないよ。依頼が終わったから帰ってきたんだけど……」「へ……? は、はい? えっと……最短でも、やっと山に着いた頃だと思いますけれど……?」 ニーナは目をパチパチさせ、信じられないものを見るように首を傾げた。彼女の常識では、今この瞬間にユウヤが目の前にいること自体が、魔法か何かを見せられているような感覚なのだろう。「あはは、ちょっと急いだんだ。ほら、これ。村長のサインももらってきたよ」 ユウヤが差し出した依頼書を、ニーナは震える指先で受け取った。しかし、そこに記された数字に目を落とした瞬間、彼女の時が止まった。「……えっ? あ、あの……ユウヤ様? この……討伐数の欄……桁、間違えていらっしゃいませんか……?」 ニーナの透き通った瞳が、三万体というあり得ない数字を捉えて激しく揺れていた。 俺から手渡された依頼書を凝視したまま、ニーナは石像のように固まってしまった。まあ、書き換えも誤魔化しもきかないこの討伐数を見れば、無理もない反応だとは思うけれど。「あ、あの……何ですか、これ……。種類の数も討伐数もおかしいです。いったい……どちらへ行かれたのですか? 討伐する場所を間違えてませんか
冗談っぽくそう告げた瞬間、建物の中から「ひっ!?」という短い悲鳴が上がり、ドタバタと慌ただしい足音が響いた。……さすがに討伐したモンスターを生き返らせるなんて、俺にもできないと思うけどさ。「お、お待ちください!! 待っていただきたい!!」 勢いよくドアが開き、中から白髪混じりの髭を蓄えた、恰幅の良い老人が飛び出してきた。その後ろからは、不安げな表情を浮かべた村人たちが恐る恐る顔を覗かせている。「わ、私は、この村の村長です……。モンスターの殲滅をしていただいたそうで……感謝をいたします。……ですが、ほ、本当に、本当に殲滅をされたのですか?」 村長は、信じられないといった様子でユウヤを凝視した。村を覆っていたあの禍々しい黒い霧が晴れ、久方ぶりに差し込む暖かな陽光が彼らの肌を照らしている。それが何よりの証拠ではあるのだが、たった一人で現れた少年に、村を救うほどの力があるとは俄かには信じがたいのだろう。「ええ。とりあえず、村の周りと地下にいた群れは片付けましたよ。もう山道を通っても襲われる心配はないはずです」 ユウヤが屈託のない笑みを見せると、村人たちの間に「おお……」と地響きのような、安堵と驚愕の混じった溜息が広がっていった。 ユウヤが「これ、ギルドの依頼書です」と差し出すと、村長は震える手でそれを受け取った。そこに刻まれた信じられないような討伐数と、実際に晴れ渡った空を見比べ、彼は枯れた声を絞り出すように叫んだ。「うおぉ~~!! 助かったぞっ! 皆の衆、もう大丈夫だ!」 その声を合図に、広場には家々から村人たちが次々と溢れ出してきた。「わぁ~!!! やったぁ~! 餓死しなくて良かった……」「三ヶ月振りに、やっと町に帰れる……。ゴブリンやデカいモンスターは、もう現れないんだよな? な?」 涙ながらに抱き合う者、地面に膝をついて祈りを捧げる者。村中が爆発したような歓声に包まれる。その中で、荷物を背負った商人風の男が必死な形相でユウヤに詰め寄ってきた。「本当に、現れないんだな!?」「はい。普通の山程度には現れますけど……あの異常な群れはもういませんよ」「でも、現れるのだな? なら護衛が必要だな……頼めないか? あんた、強いんだろ?」 男は商品を売りに来たのか、はたまた届けに来たのか、運悪く封鎖に巻き込まれて三ヶ月も足止めを食らっていたらしい
洞窟内に再び静寂が戻ると、ユウヤは女神から授かったスキルを使い、散らばった魔石の回収を始めた。「これだけデカいと、魔石も相当なもんだな……今日だけで、モンスターの大量の討伐をして随分とレベルが上ったな。そのお陰で体が随分と軽くなった気がするな。最高じゃん!」 ユウヤは自らの掌を握り込み、全身に漲る圧倒的な力を実感した。重厚な魔石を次々と収納に放り込み、ふと、自分を飲み込んだあの巨大な穴を見上げた。「どうやって、脱出しようか考えてたけど、今の身体能力なら跳躍で出れそうじゃないのか?」 深く暗い垂直の穴。以前の自分なら絶望していたかもしれないが、今のユウヤには揺るぎない自信があった。彼は軽く膝を曲げ、大地の反動を余すことなく跳躍へと変えた。 ドォン! という爆音と共に地面が爆ぜ、ユウヤの体は弾丸のような速度で上昇した。急激なレベルアップによる身体能力の向上は想像を絶しており、穴の出口を通過しても勢いは止まらない。「うおわっ!? 飛びすぎだろこれ!」 想定を遥かに超え、ユウヤの体は木々の梢を遥か眼下に捉えるほど上空まで舞い上がった。切り裂くような風の音が耳朶を打ち、冷たい空気が全身を包む。 落下に備え、ユウヤは空中で瞬時に姿勢を制御した。着地の衝撃を殺すため、足元にクッション状の多層バリアを展開する。地面に接触した瞬間、凄まじい土煙が舞い上がったが、バリアが全ての衝撃を吸収し、ユウヤは事もなげに大地に降り立った。 立ち上がり、周囲を見渡したユウヤは、その光景の変化に目を細めた。「……霧が、晴れてる」 先ほどまで視界を塞いでいたどす黒い霧は霧散し、そこには陽光が木漏れ日となって差し込む、穏やかな山の風景が戻っていた。 原因は、あの地下の空間に溜まっていた大量のモンスターの邪気やオーラが混ざり合い、溢れ出していたものだったのだろう。地下の魔物を一掃したことで、異変の源流が絶たれたのだ。 森の奥には、まだ微かに魔物の気配が残っているが、それはごく一般的な野生のそれだった。「これなら、もう問題ないな」 ユウヤは清々しい表情で空を仰いだ。山を覆っていた不気味な気配が消え、村を繋ぐ道は再びその姿を現していた。ふと、手元にある依頼書の魔力的な表示を確認し、ユウヤは思わず「うわっ……」と声を漏らした。「ヤバっ!? 討伐合計数が三万体ってなってるし……